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佐世保簡易裁判所 昭和60年(ハ)151号 判決 1985年9月24日

原告

大場興産株式会社

右代表者

大場聖

右訴訟代理人

岡部郁也

塩津賢三

被告

鴨川茂子

右訴訟代理人

山元昭則

高尾實

横山茂樹

小林清隆

主文

一  被告は原告に対し、金四万一、四二〇円及びこれに対する昭和五九年一二月三〇日から同六〇年一月二九日まで年一割八分、同年一月三〇日から支払ずみまで年三割六分の各割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を被告のその一を原告の各負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金六万九〇一七円及びこれに対する昭和五九年一二月三〇日から支払ずみまで年三割六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告は原告に対し、金四万一、四二〇円及びこれに対する昭和五九年一二月三〇日から支払ずみまで年一割八分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は被告に対し、昭和五九年三月二三日、金一〇万円を次の約定で貸し渡した。

弁済期 昭和六一年三月二二日

利息 日歩一五銭(年率五四・七五%)

利息の支払方法 貸付け日から三二日以内に初回の利息を支払い、その後は右利息支払日の翌日から三一日以内に支払う。

期限後の損害金 日歩一五銭(年率五四・七五%)

期限の利益の喪失 利息の支払を一回でも怠つたときは、通知、催告なしに当然に期限の利益を失う。

2  被告は昭和五九年四月二六日に支払うべき利息の支払を怠り、期限の利益を失つた。

3  よつて、原告は被告に対し、貸金残元金六万九、〇一七円及びこれに対する期限の利益を喪失した後である昭和五九年一二月三〇日から支払ずみまで利息制限法所定の年三割六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、貸付けの日、金額、利息の約定は認めるが、その余の約定は否認する。

2  同2の事実のうち、期限の利益喪失の事実を否認し、その余の事実は認める。

三  抗弁

1  原告と被告間の利息の約定(年五四・七五%)は、利息制限法所定の制限を超える限度で無効であるから、被告が支払つた弁済額は同法所定の利率(年一割八分)に引き直して、計算すべきところ、被告は別紙(一)充当計算書のとおり弁済したので、残元金は四万一、四二〇円である。

2  仮に原・被告間に遅延損害金の約定が認められるとすれば、同約定は次に述べるとおり無効ないし不成立又は、原・被告間の合意により変更解約したか、その請求を放棄した。

(一) 利息制限法一条所定の利率を超える利息の約定は無効であり、債務としては本来存在せず、債務者に履行を強制できない。そうだとすると、請求できない右約定利息の支払を強制し、これを支払わなかつたことを理由として、期限の利益を失なわせ遅延損害金の支払義務を負わせる旨の特約も無効である。

(二) 原告を含むすべてのサラ金業者は、真に期限の利益を失わせるつもりがなく、依然として元金利用の対価たる利息を徴収する意図を有しながら、単に利息制限法四条所定の高い利率の適用を受けることのみを目的として、懈怠条項・遅延損害金条項を設けているが、右約定は同法一条の脱法行為であつて無効である。

(三) 契約書(甲第一号証)中には、借主は一定の事由が生じた場合には遅延損害金を支払う旨の記載があるが、被告は、原告会社従業員から求められるままに、不動文字で印刷された定型用紙(契約書)の空欄に住所、氏名を記入したに過ぎず、右記載はいわゆる「例文」と解すべきで、これに拘束力を認めるべきでなく、遅延損害金約定の契約は成立していない。

(四) 仮に遅延損害金の約定がいつたん成立したとしても、原告は、昭和五九年四月二六日に支払うべき利息の支払を怠つたから、同日をもつて期限の利益を失つた、と主張しながらその反面、元利金全額の一括弁済の請求をしていないのみならず、その後も元金の利用を容認し、従前と同じ方法で被告の弁済を利息として受領し続けてきたのであつて、右は明示又は黙示の合意によつて遅延損害金の約定が変更解除され、又は、原告はその請求権を放棄したというべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実のうち、被告主張のとおり弁済したことを認め、その余の事実は争う。

2  同2の(一)、(二)の主張は争う。同(三)のうち「例文」の主張を争い、その余の事実は認める。同(四)の事実のうち、昭和五九年四月二六日利息の支払を怠り、期限の利益を喪失した旨主張していることを認め、その余の事実は否認ないし争う。

五  再抗弁

1  原告は被告に対する前記貸付のとき、貸金業法三条所定の貸金業の登録を受けていた貸金業者であつて、業として被告に貸付けた。

2  原告は右貸付けに際し、貸金業法一七条所定の事項を記載した契約書面を遅滞なく、被告に交付した。

3  原告は被告から別紙(二)入金計算書記載のとおり、弁済を受けたので、その都度、直ちに、同法一八条所定の事項を記載した受取証書を被告に交付した。

4  被告が支払つた右入金計算書中の利息又は損害金欄記載の金額については、被告はその都度、利息又は損害金と指定して任意に支払つた。

5  よつて、被告の原告に対する利息制限法所定の限度を超える利息(損害金)の支払は、有効な利息(損害金)の支払とみなされる。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実は知らない。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実中、原告主張の支払日に、支払金額欄記載の金額を原告に支払つたことは認め、その余の事実は否認する。

4  同4の事実は否認する。

5  同5の主張は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の事実(金銭消費貸借契約)中、弁済期、遅延損害金、期限の利益の喪失の各約定を除き当事者間に争いがなく、また、被告のこれに対する抗弁1の弁済の事実も、弁済日、その額については当事者間に争いがない。

二そこで、まず争いのある残元金の確定に向け、すなわち、再抗弁(法四三条一項の要件の具備)につき判断することとする。

1  原告は甲第一号証(借入限度設定契約書)を法一七条所定の契約書面として被告に交付した、と主張(再抗弁2の事実)し立証するので、これが同条所定の要件を具備する書面に該当するかどうか、まずその内容を検討するに、同書面は、被告の借入限度額を設定した被告作成名義の、原告会社に差し入れられた借入限度額設定契約書であることは、その標題、内容に照らして疑う余地のないところであつて、これは包括的な被告の借入限度額を約した書面に過ぎず、個々の具体的な金銭の消費貸借契約を結んだ契約書面というを得ないものである。

2  また、その内容をつぶさに検討しても、法の要求する(ア)貸付の金額、(イ)返済の方式、(ウ)返済期間及び返済回数等につき包括的な記載はあるが、具体的な記載が不十分ないしは表示に欠け、法一七条所定の要件を具備する契約書面には当たらないというべきである。

3  そうすると、法四三条一項のいわゆるみなし弁済の要件を充足しているとは認められないから、その余の再抗弁事実を判断するまでもなく、原告のこの点の主張は失当である。

三右の事実によると、利息制限法所定の制限を超える利息(損害金)の支払は無効であるから、同法の制限内に引直して充当計算すると、別紙(一)充当計算書のとおりで、残元金は、四万一、四二〇円となり、この点を主張する被告の抗弁は理由がある。

四ついで、遅延損害金条項並びに期限の利益喪失条項の各約定の有無につき判断するに、<証拠>を総合すると、当事者間で、遅延損害金を一万円につき一日、一五円(実質年利五四・七五パーセント)と定めて約したこと、利息の支払を一回でも怠ると期限の利益を当然に失うことを約したことが認められ、被告本人の供述中、一部右認定に反する部分は信用せず、他にこれに反する証拠はない。

五そこで、抗弁2の事実につき判断する。

1  抗弁2の(一)の事実中、利息制限法一条所定の利率を超える利息を約したことは当事者間に争いがない。しかし、右約定も同条所定の限度内で有効であるから、右約定の事実から直ちに遅延損害金条項、期限の利益喪失条項が総て無効と解することはできない。

2  同2(二)の事実を認めるに足りる証拠はなく、前提を欠く。

3  同2(三)につき、<証拠>によると、被告は、契約書(甲第一号証)の記載内容を理解できたほか、利息の定めとか期限の利益喪失条項等につき、原告会社従業員から説明を受けて、これを理解したうえ契約を結んでいることが認められ、これによると、「例文」と解することはできない。

4  同2の(四)につき判断するに、被告が昭和五九年四月二六日支払うべき利息の支払を懈怠したことは当事者間に争いがない。<証拠>を総合すると、原告会社の従業員は、右四月二六日を経過した後も、期限の利益を喪失したとして、元金の一括返済と遅延損害金の請求をしたことはなく、むしろ、利息の支払を請求し続けてこれを受領していることが認められ、<証拠>中、右認定に反する部分は採用しない。

右事実によると、被告はいつたん喪失した期限の利益を黙示の合意により再度付与して、元金の利用を許容し遅延損害金の請求を一時放棄したものと認めるのが相当である。そうすると、昭和五九年四月二六日の経過により期限の利益を喪失したとする原告の主張は理由がなく、被告の抗弁2の主張は右の限度で理由がある。

六ところで、被告は昭和五九年四月二七日以後も同年一二月二九日まで利息を支払い続けてきたことになるが、それより後は、全く弁済していないことは当事者間に争いがない。そして、約定による次回の利息支払期日は、昭和六〇年一月二九日(利息支払日の翌日から三一日以内)であることが計算上明らかであるところ、当日の利息(利息制限法所定の利率)の支払をしていないのであるから、同日の経過により再度当然に期限の利益を喪失した、というべきである。

そうすると、同日を境にして利息と損害金の区分をなすべきであるから、遅延損害金発生時期は同月三〇日、ということになる。

七以上の事実によると、原告の本訴請求は主文掲記の限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官坂本隆一郎)

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